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ゾンビのようなイノベーション活動が生まれるわけ - 日経ビジネス電子版

全3599文字

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 イノベーション活動がメジャーになるなかで、旧態依然とした組織がイノベーション活動を推進する動きが出始めているが、その多くはうまくいっていない。ボトルネックとなっているのは、既存の大きな仕組みでは動きが遅いことだ。トップダウンで「イノベーションを起こせ!」というようなケースで、いざそれを実践しようとすると、さまざまな壁にぶち当たる。

佐宗 邦威(さそう・くにたけ)
BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー
大学院大学至善館准教授

東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を起業。企業のミッションやビジョンのデザイン、ブランドデザインなど、ビジョナリーの妄想を起点にした企業の存在意義の再構築による未来創造プロジェクト全般を得意としている。バラエティ豊かな企業・組織のイノベーション支援を行っており、個人のビジョンを原動力にした創造の方法論にも詳しい。著書に『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(クロスメディアパブリッシング)、『直感と論理をつなぐ思考法──VISION DRIVEN』(ダイヤモンド社)がある。

 「イノベーション力が足りないから、デザイン思考を導入したい」というような、方法論ありきの相談を受ける機会があるのだが、うまくいかないイノベーション活動のほとんどは、「誰のものでもない、分厚い企画書(資料)だけができあがる」「アイデアは多く出るが、その後つながらない」「細かいユーザー向けのニッチ商品など小さくまとまってしまう」「デザイン思考のワークショップを行ったが、現場では使えない」「社内で支持を得られず、社内の前例や慣習とぶつかったときに足止めを食らう」といったパターンで滞ってしまう。

 誰も本気で未来をつくろうとしていないのに、惰性でやっている“ゾンビのような”活動になってしまう理由として、以下のような課題が挙げられる。

課題(1) 人の不在──主人公が誰もいないプロジェクト

 「イノベーションが必要だから」というようなトップダウンの号令によってプロジェクトが始まり、初対面の人たちが互いの部署の利害を調整しながら進めていくイノベーション活動からは、魂のこもったプロダクトやビジネスは生まれにくい。イノベーションチームのメンバーが、さまざまな部署の利害調整をしながら妥協してつくったものは総花的で分厚い企画書となり、一向にかたちにならず、担当役員の変更とともに立ち消えになってしまいがちだ。

 一方、そのテーマを自分事化している人は、実践しないと意味がないため、決裁資料をつくることよりも、完璧でなくてもいいから少しでも企画を前に進めようとする。そうした自分事化した主人公がいないイノベーションプロジェクトは、前に進まない。

課題(2) 場の不在──新たに生んだものを育てていく場や仕組みがない

 新規の取り組みは、多様な意見から出てきたアイデアをもとに、生き残っていく強いアイデアを育てていく営みである。ひとつも失敗できない雰囲気が漂うなか、新しいものを考えろというのは、謝罪会見をしている芸人に「お前ら、何か面白いことを言え!」と迫るようなものだ。逆に、ゆるく楽しく、面白い人が自発的に集まって遊ぶことができる場をつくれば、放っていても面白いものは“生まれてしまう”。

 また、イノベーション活動は、その実現までに100以上の壁を乗り越える必要があるが、それを促進させる場や仕組みがあることで、新しいタネは生き残りやすくなる。

課題(3) 意志の不在──出てきたアイデアがまとまらない

 新しい取り組みを具体化していく初期は、アイデアがまとまらないという現象が起こる。アイデアをまとめるには「なぜ、やりたいのか?」「どんな問題を解決したいのか?」といった強い想いが必要だが、発散したあとに周囲を納得させながら意志を込めていくには、数字で客観的に説明可能な意思決定ばかりをしている環境では難しい。

 一方、「なぜ、そのプロジェクトをやるのか?」といった意義やビジョンを常に話し合っているチームでは、アイデアをまとめるためのより大きなビジョンや普遍的な存在意義に帰着し、自然に多様な人が自律的に動きだすようになる。

課題(4) つくり方の不在──自分たちの課題に合った創造の方法論が使えていない

 質のよいものをつくり出すには、圧倒的な熱量をもった個人の独創によるアイデアのタネを、共創を通じてブラッシュアップしていくことが必要だ。デザイン思考のような多様な人の視点を活用してアイデアを生む共創の方法論は、その前提として強い意志を育む独創が欠かせないのだが、それが両立できている例は必ずしも多くない。

 また、同じ創造でも、5~10年の長期の時間軸でビジョンづくりや技術開発を行う場面と、1~3年の中期の時間軸でサービスや事業をデザインするものでは、方法論がそもそも異なるため、テーマや事業ドメインに合わせてこれらを使い分ける必要がある。こうした方法論をうまく使えているチームは、自分たち流にカスタマイズしたつくり方をもっている。それを独自のツールキットとして共有することで、創造がスケールしていくのだ。

課題(5) 組織とのすり合わせができない──効率性を大事にする既存組織

 新たな取り組みは、既存の仕組みのなかで生きている人にとってはムダで遊んでいるように見える。また、失敗を最小限にするための法務・知財・予算・社内承認プロセスなどの“コンプライアンス”は、創造の世界で不可欠なスピードを落とすブレーキになりかねない。これを陸上競技にたとえるなら、スタートアップが100メートル走をしているのに対し、既存の組織が障害物競争をしているようなものである。

 隔たる根本的な考え方の違いを乗り越えて、新規のタネを既存の組織のなかで生かしながら育てていくのは難しい。これらを実現するためには、既存の組織とは別の場で新しいタネを育てる場をつくり、それを既存の仕組みに接木(つぎき)していく必要がある。

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January 30, 2020 at 03:03AM
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