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ファミリービジネスが背負う「3世代の法則」 勝ち残る企業の共通点は | ツギノジダイ - ツギノジダイ

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 家族経営会社のほとんどが3代までで消滅することを、皆さんはご存じでしょうか。

 初代で生き延びる確率は16%。受け継がれた会社のうち2代目以降も生き残るのは30%で、3代目のビジネスも半数しか残りません。つまり、4代目に到達できるのは100社あたり2~3社にすぎないわけです。

初代を生き残った会社を100として、以降の「継承率」を示すグラフ。世界的に4代目まで続くファミリービジネスは限られることが明らかになっています(提供:Center for Enterprise Group)

 「この『3世代の法則』は世界各国に存在する古訓」と語るのは、その学問的な実証に取り組んできた、MITスローン経営大学院で教えているジョン・デービス教授です。

 デービス教授は長年、世界各国における家族経営の現状や課題を検証してきた、ファミリービジネス研究の権威です。研究を続けるなかで、前述した世代ごとの継承率が分かり、それが万国共通であることも判明したそうです。

MITスローン経営大学院・ジョン・デービス教授 家族経営企業、家族財産、ファミリービジネス研究のパイオニアで第一人者。1970年代から、家族経営の研究の枠組みを作り活躍してきた。ハーバード・ビジネス・スクールでは21年間教壇に立ち、同校のファミリービジネス研究分野を創設。MITスローン経営大学院ではMBAコースや経営者コースで、同大学院の家族企業プログラムをリードしている。世界有数の企業を含む70カ国以上のファミリー企業の多世代戦略のアドバイザーとしても活躍。1989年に設立したファミリービジネスの世界的研究機関「ケンブリッジ・ファミリー・エンタープライズ・グループ」の会長も務める(提供:Center for Enterprise Group)

 また「3世代の法則」にはまらず、幾世代にもわたって家業を繁栄させていくためにはどうすれば良いのか。そのカギも見えてきたと言います。「こうすれば成功する、失敗するという、非常に信憑性の高いフォーミュラ(法則)やフレームワークがあるんです」(※MITのレクチャービデオ動画より引用)

 そもそも「家族経営企業」とは何なのでしょうか。

 デービス教授は取材に対し、「一族が所有権を握っており、なおかつ、その一族のメンバーのうち通常2人以上がビジネスの方向性に対する影響力を持っている会社」と答えました。

 「一族が事業に何を望んでいるかによって、その会社の行く末が大きく、時には決定的に変わったりするわけです」

 ファミリービジネスには、それ以外のタイプの企業には見られない、特有の強みと弱みがあるといいます。強みとしては、ゆっくりながらも着実な成長を遂げること、財政面でも安定しているのが特徴だと、デービス教授は指摘します。

 「ファミリービジネスは長い目で考えてプランを立てます。家族は長期的な存在だからです。自分だけでなく、子供や孫たちのことまで考えるわけですから」

 これは株を一般に公開しているかーーつまり、株価を意識しなければならないプレッシャーがどれほどあるかという問題とは無関係だといいます。

 「家族系企業は上場している会社でも、家族経営でない企業と比べてものの考え方も計画の立て方もより長期的なんです」

 自分たちの判断や従来のやり方にこだわり、日々の運営に集中してしまいがちといった短所もあるものの、イノベーション力に富み、価値や質に重きをおいた経営ができるといった長所もあります。

 ファミリービジネスはそれ以外のタイプの企業と比べ、成長率が高いことが研究から明らかになっているそうです。

 研究によって測定の物差しが異なるため、一概にどのくらいの違いがあるとは言えないものの、デービス教授は「成長率、総資産利益率(ROA)、投下資本利益率(ROI)、収益性のいずれにおいても、平均値に大きな差があります」と説明します。

 しかし、成功している事業であっても、いつかは終わりを迎えます。

 デービス教授によると、一族が築きあげてきた「富」の成長は、通常2代目のどこかで頭打ちになります。

 大半のケースはそこから緩やかに失速し、次代(3代目)で終わりを迎える「3世代法則の途」を歩むそうです。

 また2代目に引き継がれた企業のうち約20%は「急降下の途」をたどってその代で富が消滅します。一方で、約15%は新たな事業に取り組み「富の再生」をはかります。

2代目や3代目で新たな事業に取り組んできた企業は、「富の再生」を実現する傾向にあることが研究から明らかになりました(提供:Center for Enterprise Group)

 デービス教授が、再生組の代表格として例に挙げるのは、アメリカの複合企業「コックス・エンタープライジズ」です。

 1889年に創設者のジェームズ・ミドルトン・コックス氏がオハイオ州の新聞社を買い取って始まり、長年にわたりラジオやテレビを含むメディア大手として成長しました。4代目がCEOを務める現在ではEコマースや自動車関係事業を含むコングロマリットと化しています。

 その歴史を振り返れば常に「情報」というテーマを軸として発展してきたとデービス教授は指摘します。これは「再生の途」を切り開くための典型的なアプローチだそうです。

 「歴史的にみて、家族経営企業はできるかぎりスケールアップをはかり、適切な時期に新しい成長分野へ多角化することで生き残ってきました。サステイナビリティーという観点では、私が追跡した限りではほぼ全ての家族経営企業がこの戦略を用いてきています」(※)

 一方、スウェーデンのステンベック一族は、1930年代に初代のヒューゴー・ステンベック氏が農林業のビジネスを興したあと、2代目は製鉄や自動車、テレコミュニケーション、3代目はエンターテインメントにEコマースと、世代ごとに全く異なった業界で一族の富を築いてきました。

 後継者がそれぞれ自ら関心のある業界に乗り出し、事業の「リインベンション(作り直し)」をしてきたわけです。

 「VUCA(英語での変動性、不確実性、複雑性、曖昧性の頭文字)」というフレーズが飛び交う今日この頃。ひとつの業界におけるビジネスチャンスがあっという間に成熟してしまう中で、デービス教授はリインベンションという「より大胆な」アプローチをとる同族会社が増えていくはずだと見ています。

 長期的なビジョンを大切にしながら流動的な時代を乗り切るには、「自分たちが得意なことは何なのか、そこにどのくらいビジネスとして成長するチャンスがあるのか、そして自分たちは何を成し遂げようとしているのかを自問してみるべきだ」(※)とデービス教授は助言します。

 それは使命感を持つことで、ひとつの業界にこだわらず、成長が見込まれる新たな領域に踏み出しやすくなるからです。機敏性を増すことで、持続的な成長のカギである「モメンタム(勢い)」が生まれるわけです。

 もちろん、「後継」を前提としていないファミリービジネスも少なくありません。予期せぬ成り行きから会社員を辞めて家業を継いだという話は、ツギノジダイで取り上げた企業の事例でもよく目にします。

 家業の業界や分野で働いたことがなくて苦労する2代目社長も多いでしょうが、それは決して悪いことではないと、デービス教授は取材に対して話しています。

 「若者には『今すぐ家業に入らず、外に出てしばらく働いて信用を積んだほうがよい』といつも言っています」

 たくさんの経験を積むことでより成熟した人間となり、さまざまな学びやアイデアを家業に提供できるからだそうです。

 そういった後継者が、長年現場で経験を積んできた「中の人」たちに受け入れてもらうには、どうしたら良いのでしょうか。

 「家族経営企業の従業員は、個人の価値観に非常に注意を払うものです」とデービス教授は話します。「その人の流儀というか、『この人は一緒にうまく働いて行ける人だろうか』というところを見ています」

 つまり、人としての信用を得られれば、受け入れてもらいやすいということです。

オンラインで取材に応じたデービス教授

 ファミリービジネスに特化したコースは、今でこそ全米各地のビジネススクールで提供されていますが、この分野が研究の対象として注目されるようになったのは20世紀も終わり近くになったころでした。

 その背景には、19世紀から20世紀前半にかけて家族経営以外の企業形態が普及するにつれ、それが「ゴールドスタンダード」として広く受け入れられたという歴史があると、デービス教授は取材に対して説明します。

 「社会の人々も、ビジネス誌やビジネススクールも、『ファミリービジネスは時代遅れで、あまりプロフェッショナルではないし、うまく機能するはずもない』と考え始めたのです」

 家族経営企業に対する偏見に終止符を売ったのは、1990年代のテック業界のスタートアップブームでした。

 「起業家であることが再び『クール(カッコ良い)』と思われるようになり、雑誌も起業家を取り上げ始めたのです」

 それに伴い家族経営に関するリサーチも活発に行われるようになり、ファミリービジネスが社会に与えるインパクトが明らかになってきたと言います。

 家族経営というと町工場のようなものだけを連想しがちですが、ウォルマートやフォードといったグローバル企業も、同族によって代々受け継がれてきたファミリービジネスです。

 MITスローン経営大学院によると、アメリカの上場企業の3分の1は家族経営企業で、世界最大手ファミリービジネスのリスト「Top 750」(Family Capital社作成)にある会社の収益は合計で9兆ドル(約1215兆円=1ドル135円で換算)にも達するそうです。

 家族経営について体系的に学ぶためにMBA(経営学修士)プログラムに進学する人も多いはずです。しかし多くの経営大学院では、フルタイムで学生生活をする余裕がない人でも学べるよう、ファミリービジネスに特化した短期コースを用意しています。

 例えばMITスローン経営大学院では、エグゼクティブ教育プログラムの一環として5日間コースを提供しているほか、ハーバード・ビジネススクールでも家族経営に的を絞った短期間のエグゼクティブ教育コースを提供しています。

 また、ボストン郊外にあるバブソン大学のウェブサイトによると、同大学のMBAプログラムには家族経営に焦点をあてたトラックが用意されています。バブソンの学生の半数以上は家族経営の従事者で、またその半数がアメリカ国外に拠点をおいているそうです。

 MBAプログラムの利点は、人と人とのつながりだとデービス教授は話します。

 「多様な友人や同僚がいると、本当に助かるんです。(困ったときに)電話をして聞ける相手がいるのはありがたいことです」

 デービス教授が創設を手伝った非営利団体「Family Firm Institute」では、家族経営に関するコースやプログラムを提供している世界中の教育機関のリストを発行しています。詳しくはこちらをご覧ください。

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July 15, 2022 at 12:05PM
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