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「水素」の先端技術 イスラエルで追った

燃やしても二酸化炭素を出さない水素。次世代の期待のエネルギー源として注目されていますが、製造コストが高いという課題があります。この課題克服に今、日本も含めた世界中が取り組んでいます。こうした中、画期的な技術を開発した企業がイスラエルにあると聞き、取材に向かいました。中東イスラエルでの水素開発最前線です。(エルサレム支局長 曽我太一)

脱炭素の鍵は水素

人口930万の中東イスラエル。

パレスチナとの緊張関係など紛争のイメージがつきまといますが、実は人口100万人あたりのスタートアップ企業の数が世界で最も多い国の一つとされ、イノベーションの国としても知られています。

AIやサイバー技術ですぐれた企業が数多く存在します。

そのイスラエルに水素でも先端技術を持つ企業があるとの情報を耳にし、私はイスラエル北部にあるカイザリアの研究拠点を尋ねました。

出会ったのは、水素の製造技術を開発するスタートアップ企業「H2Pro」のタルモン・マルコCEO。

イスラエルの名門、テルアビブ大学を卒業後、多くの起業家を輩出するイスラエル国防軍の情報部門の責任者を務め、ビジネスの世界に転身しました。

無料通話アプリを展開するバイバー社やイスラエル版の配車サービス会社といったIT企業を次々と立ち上げ、成功させてきました。

そのマルコ氏が2019年に創業したのが、今回の水素製造技術の会社です。

これまでのソフトウェアを中心としたビジネスとは全く違う分野で起業したのは、脱炭素社会に向けた水素の大きな可能性に気付いたからだと言います。

H2Pro タルモン・マルコCEO
「子どもや孫たちのために世界をより良くすることが大切だと思いました。私たちや前の世代が作り出した状況を改善しなくてはならず、その鍵の一つが水素です。水素は“万能ナイフ”のようなもので、航空や鉄鋼、輸送などの様々な分野で脱炭素化を進めるのに役立ちます。気候変動を解決するには水素が必要ですが、課題はどう価格を安くするかということです」

製造コストを下げる秘密とは?

水素は化石燃料と違い、燃やしても二酸化炭素を排出しません。

天然ガスなどから取り出す方法や、水を電気分解して製造する方法があり、なかでも、再生可能エネルギーを使用した電気分解であれば、製造時にも二酸化炭素を排出しないため、よりクリーンな水素を製造することができます。

ただ、高いコストが課題となっています。

電気分解では、水に2つの電極を入れ、それぞれに電気を流して水素と酸素を発生させます。

しかし、水素と酸素は同時に発生するため、混じり合うと化学反応を起こして爆発する恐れがあります。

このため、間に隔離膜を設置する必要があり、設備コストが高くなる要因となっているのです。

このコストを下げるため、マルコ氏の企業が開発したのがニッケルを加工した特殊な電極です。

通常の電極と、この特殊な電極を組み合わせて電気分解を行うことで、水素と酸素の発生のタイミングをずらすことに成功したのです。

まず通常の電極で水素のみを発生させて回収し、そのあと特殊な電極で酸素を遅らせて取り出す仕組みです。

水素と酸素を別々に発生させるため、隔離膜を設ける必要がない上に、電気分解の効率も高まり、設備投資と運用コストの両方を下げることができるため、結果的に製造コストを大幅に下げることが可能だとしています。

グリーン水素を安く 投資も活発に

この方法を活用し、電気分解に使用する電気も再生可能エネルギーであれば、製造過程で二酸化炭素は発生しません。

このようなクリーンな水素は「グリーン水素」と呼ばれ、環境への負荷が最も低いとされています。

・グリーン水素 再生可能エネルギーなどをベースにして製造
・ブルー水素 化石燃料をベースにしつつ二酸化炭素の排出量を抑えて製造
・グレー水素 化石燃料をベースにして製造

ただ、現在の「グリーン水素」の製造コストは、1キログラムあたり5ドルから10ドルほどと割高です。

この企業では、低コストの製造技術を活用して、“2030年には水素1キログラムあたり1ドルで作る”ことを目標にしています。

タルモン・マルコCEO
「『1キロあたり1ドル』というのは、“グリーン水素”製造の究極の目標のようになっていますが、これが実現されれば、多くのものに水素を使うことができます。早く実現できればできるほど、既存のエネルギー源に並ぶことができ、世界的なグリーン経済への移行を促進することができるのです」

この水素の製造技術には世界から高い関心が寄せられています。

このスタートアップ企業には、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏のファンドや日本の大手商社、住友商事などからこれまでに合計1億ドルの資金が供給されました。

出資した住友商事のベンチャー・キャピタルの幹部は、水素の普及に向けた各国や企業の本気度が変わり、“安い水素”が現実のものになりつつあると指摘しています。

住友商事のVC エイアル・ローズナーさん
「世界各国が脱炭素に移行する必要があり、水素が最良の解決策の一つであることは誰もが理解している。そのため、多くの資金が投入され、新しいスタートアップ企業が次々と誕生している。水素のマーケットはすでに大きいが、技術革新によってコストが安くなるにつれてさらに成長していく。サステナビリティへの意識が高まっている今こそ、水素ビジネスに真剣に取り組むときだと思います」

実用化を見据えた動きも

水素の普及を見据え、新たなエンジンの開発に乗り出す会社もイスラエルにあります。

スタートアップ企業「アクエリアス・エンジンズ」が開発を進めているのが、ガソリンの代わりに水素を燃料とする「水素エンジン」です。

ガソリン車のエンジンは多くの部品を必要としますが、この企業が開発したエンジンは約20個の部品だけで構成され、重さもおよそ10キロ程度と軽く小型なのが特徴です。

しかも、ガソリンの代わりに水素を燃焼させて動力にするため、二酸化炭素の排出を抑えることができると注目されています。

水素を使う車といえば燃料電池車を思い浮かべますが、水素エンジンの車なら既存のシステムが使える部分も多く、コストが安く済むというメリットがあります。

日本の自動車メーカーのあいだでもトヨタが開発を進めています。

イスラエルには自動車の完成車メーカーは存在しませんが、水素を活用した自動車開発への関心が高まる中で、この企業には国外の車関連のメーカーなどからも投資が相次いでいます。

その1つが、東京に本社のある大手自動車部品メーカー「TPR」です。

ピストンリングなどのガソリンエンジンの部品製造で世界的なシェアを占めています。

しかし、EV=電気自動車へのシフトが進む中で自分たちのビジネスが先細りするのではないかという危機感を抱いてきました。

それでも近い将来、エンジンの燃料として水素が普通に使われるようになれば、自社の技術を生かすチャンスになると考え、この企業に1000万ドルを出資し、今後は水素エンジンの共同開発も目指す方針です。

TPR 塚本英貴執行役員
「部品単体を売るというこれまでのビジネスモデルから、エンジン開発そのものの領域にビジネスを拡大する可能性も含めて考えている。カーボンニュートラルという観点を踏まえると、今私たちが考えられるアイテムの中で、水素は非常に大きな可能性がある」

水素で熾烈な競争 日本が勝つために何が必要か

日本はいち早く水素開発に着目し、2017年には日本政府が世界に先駆けて水素の国家戦略を打ち出しました。

しかし、最近では、欧米各国が水素の普及を積極的に支援したり、再生可能エネルギーが豊富なアフリカや中東も製造拠点の誘致に手を上げるなど、競争が激しくなっています。

専門家は、日本が水素で世界をリードしていくためには、水素の製造技術の確立だけでなく、供給する側から水素を活用する需要側まで「上流から下流への連携」がより重要になってくると指摘しています。

NEDO 大平英二 ストラテジー・アーキテクト
「水素を製造するメーカーだけが頑張っても普及は進まない。海外では、供給側と電気事業者や自動車メーカー、それに製鉄業などの水素の需要先と組み、上流から下流までがセットでスケールアップしていこうという動きが顕著になっている。今後は上流から下流までの『統合』や『連携』がキーワードになってくる」

イスラエルでの水素開発の最前線を取材して感じたことは、水素時代の到来は思ったよりも早まっているということです。

技術は日進月歩で進化し、次々と新しいビジネスが動き出そうとしています。

日本が世界的な流れに遅れないためにも、社会全体が一丸となって水素を活用した「カーボンニュートラル」を実現するという意識を持つことが大切だと思いました。

エルサレム支局長
曽我太一
2012年入局
旭川局、国際部を経て2020年から現所属

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November 28, 2022 at 02:57PM
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