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エスノグラフィーとは?意味やビジネスで活用するやり方を徹底解説 | ツギノジダイ - ツギノジダイ

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 エスノグラフィーとは、調査対象者の生活の場に実際に身をおいて、行動を共にしながら観察して記録する調査手法のことです。定性調査の一種になります。

 もともとエスノグラフィーは、主に文化人類学の分野での研究手法として発達してきました。異国・異文化の生活様式やその根底にある価値観を深く理解するため、現地に赴いて生活を共にしながら調査を行い、対象者の視点から物事を見るための手法です。

 そうすることで、「何が行われているか」を把握するだけではなく、その行動が行われる文脈や意味を理解することを目指します。

 エスノグラフィーは、行動観察をともなう調査手法を指す場合と、調査によって観察されたことの「記録」を意味する場合とがありますが、日本でビジネスにおいて使われる場合の多くは、前者を意味しています。

エスノグラフィーのメリットと主な流れ
エスノグラフィーのメリットと主な流れ(デザイン:増渕舞)

 近年はビジネスにおいても、マーケティングや組織改革などで活用されることが多くなりました。人の行動の多くは無意識に行われているため、インタビューやアンケートなど「言葉」で聞くだけでは、課題の全体像がつかみ切れないからです。

 マーケティング分野では主に商品やサービス開発を進めるために、例えば調査対象者が自宅や職場を訪れて、その人がどのようにそれを使っているのか、そもそもその人はどのような生活をしているのかを観察しながら、顧客が言語化できていない問題や潜在ニーズをいち早く発見する目的で行われています。

 また、組織改革においては、社内会議の様子を観察したり、社員が働いている現場を観察したりすることで、課題の本質に迫る目的で行われます。

 近年、問題解決の思考法である「デザイン思考(Design Thinking)」が注目され、その最初のステップとしてエスノグラフィーを交えたユーザー観察が推奨されたことも、この手法が広まる大きなきっかけとなりました。

 行動観察をすることで、まだ意識されていない問題を発見したり、「なぜそのような行動をするのか」といった背景を理解することで、根本的な原因を見つけたりすることができます。

 ある商品の改良を考えたとき、顕在化している顧客の不満は、アンケート調査やインタビューなどで知ることができます。しかし、もし人々が解決できると思っていないような問題があった場合、それが不満として口にされることは少ないのです。

 また、インタビューで話されたことと、実際の行動が一致しないこともよくあります。人の行動は、そもそもそんなに合理的ではないからです。しかし、言葉と行動のギャップには、消費者の隠れた心理が潜んでいることも多いのです。

 現代では、表面化しているような問題に関しては、すでに多くの企業がその解決策を提供するビジネスを行っています。したがって、まだ発見されていない「問題」を顧客の生活の中から見つけ、その解決策をいち早く提供することこそが、ビジネスチャンスにつながります。

 そこで、実際に行動を観察してその意味を解釈するエスノグラフィーを採用し、イノベーションにつなげようとする企業が増えています。

 エスノグラフィーが活用された商品の例に、Apple社のiPodがあります。当時Apple社は、市場にあるMP3プレイヤーのユーザー体験がよくないと考えていました。開発のためにさまざまな専門分野の人からなるチームが組まれ、生活者が音楽を聴いている様子を徹底的に観察したと言われています。

 それらを参考にして開発チームがコンセプトや試作品を作り、回転するホイールによる画面操作をもつ商品や、自動でPCと同期する斬新な仕組みが形作られていきました。

 また、日本の大手自動車部品メーカーのシマノは、2004年にアメリカで自転車市場の変化を探るため、デザイナーや行動科学者らと共に、様々な層の消費者と時間を過ごしました。

 特に力を入れたのは、当時のシマノの中心的な顧客ではなく、自転車にあまり乗らなくなった人たちでした。その観察から形作られた「のんびり自転車をたのしむ」というユーザー体験を実現する商品群は、多くの人を惹きつけることになりました。

 ほかにも花王やキリンビール、伊藤忠都市開発など多くの会社で採用されています。

 エスノグラフィーと似たような意味で使われる言葉に参与観察があります。

 文化人類学者マリノフスキーらによる定義では、エスノグラフィーは、現地に入り込むフィールドワークからなる実査プロセス、および、その社会の内側の視点から結果解釈と文脈理解をする調査手法です。

 一方で参与観察とは、調査者が対象者の生活する場に参加して観察するというフィールドワークにおける技法です。

 つまり、エスノグラフィーを実施するための技法として参与観察があるという位置づけです。そのため、ビジネスにおいては、事実を把握することだけでなく、結果の解釈が大事になってくることから、エスノグラフィーが活用されています。

 エスノグラフィーは、やったものの上手くいかなかった、という話もよく耳にします。ここではエスノグラフィーの実践ステップを、失敗しないコツを交えて紹介していきます。

 ビジネスにおいて成果の出るエスノグラフィーを目指す場合、得られた情報をどのようなことに活用するかを意識して、調査目的を明確にすることが重要です。

 例えば「商品Aが使われる場面を実際に見て、実態とその背景を把握する」という目的では、把握したあと、どうするのかが曖昧です。

 目的が曖昧なままエスノグラフィーを実施すると、「ふーん、こんな感じなんだ、面白かった」と漠然と理解しただけで、なんの意思決定にも使われない、ということにつながりかねません。

 ビジネス戦略に活かすためには、例えば以下のように具体的に目的を立てましょう。

  • 掃除機をかける高齢者を観察して、その中でやりづらそうなところ、失敗や危険につながる可能性があるところを洗い出し、それらを解決する商品やサービスのアイディアを考える
  • ある商品カテゴリーのユーザーの自宅や生活様式を観察し、ユーザーに共通して見られる特徴的な価値感を掴むことで、中期的なビジネスの方向性を考える材料とする
  • 子連れイベント来場者の行動と導線を観察することで、楽しみ方と潜在的な不便さを発見し、次回のイベントに向けて、顧客にとっての滞在価値を高めるための最適な会場ブースや配置を考える

 このように何に活かすかを明確に決めておくことは、結果を有効活用するための大切な要素です。

 目的を達成するための調査設計を立てます。ポイントは「誰を見るか」と「何をしているところを見るか」です。

ポイント①誰を見るのか

 例えばひとくちに「商品Aのユーザー」といっても、ヘビーユーザーを見るのか、使い始めたばかりのユーザーを見るのか、あるいは高齢ユーザーなのか若年ユーザーを見るのかなどによって、発見できることは随分違ってきます。

 家庭品に関連する調査であれば、同居家族がいるのか単身者なのかもポイントになってくるでしょう。ユーザーを幅広く網羅的に見るのか、特定の属性の人だけを見るのかなども、目的によって決めることになります。

 はじめに立てた調査目的に沿うよう、できるだけ具体的に対象者条件を決めましょう。

 またエスノグラフィーでは、あえて一般的ではない「エクストリーム・ユーザー」と呼ばれる人々を調査することもあります。例えば極めて使用頻度が高かったり、使用量が多かったりする人や、通常とは違うタイミングで使っている人などです。

 そのような人々は、商品の開発者が思いもよらなかった新たな使い方や価値を見出していることがあります。同様の理由で、「アンチユーザー」と呼ばれる、絶対にその商品を使わない人を調査することもあります。

ポイント②何を見るのか

 学術的なエスノグラフィー調査であれば、数週間~数カ月以上にわたって生活全般を観察し続けることがありますが、ビジネスでは1人あたり3時間程度が一般的ですので、その中でどんな場面を観察するかは、あらかじめ限定する必要があります。これも調査の目的に沿って決めていきましょう。

 また、これら2つのポイントにもとづいて設計をするのとあわせて、予算やスケジュールもこの段階で決めておきます。

 調査対象を決めたら、できる範囲で下調べをします。対象者や商品カテゴリーに関連するデータや記事を見たり、専門家の話を聞いたりして、知りたいことや疑問に思うことを挙げておきます。

 顧客のことを知っているつもりでも、意外と知らないことが多くあります。ある行動に何分くらいかかっているのか、どんな服装で、どのような順序で行うのか、どこに視点を向け、何に注意しているのかなど、見ておきたいことを列挙しておきましょう。

 このときは、少し広い視点で疑問を考えてみることを、おすすめします。そうすることで、新しい発見に結びつく可能性が広がるからです。調査に一緒に参加する人と、ディスカッションをしながら行うのもよいでしょう。

 知りたいことが列挙できたら、それがきちんと知れるように、対象者に事前に連絡を取ったり、必要な物品を購入したりして準備します。

 例えば、普段のお掃除ルーティンを見たいのに、直前にピカピカに掃除されてしまったら見ることができないので、あらかじめ伝えておかなければいけません。お弁当を作る場面を見たいのであれば、材料の用意が必要です。

 ビジネスでは限られた調査時間で行うことになるため、この準備をするかどうかは、最終的な成果に大きくかかわってきます。

 対象者のリクルートは調査会社に依頼することもできますし、自社のモニターや自分の知り合いの中から見つけることもできます。

 リクルートする際には、条件に合う人を見つけたうえで、訪問の日時や見せてもらいたい内容を告げて、許可をとることが必要です。また、写真やビデオを撮影することの許可もあわせて必要です。

 対象者条件が狭く、あまりいないタイプの人をリクルートしたい場合は、調査会社にお願いすれば、Webアンケートや、調査員による機縁法を使って探し出してくれます。

 実際に対象者の自宅や職場などに赴いて、行動観察をします。

 その様子はビデオや写真などで記録を取ります。同時に、観察しながら気づきや疑問をどんどんメモしていきましょう。そのため、調査には複数人で行くことをおすすめします。ただし、対象者のことも考えて、多くても3~4人程度にするとよいでしょう。

 なお、観察チームを組むときは、異なる部署や立場の人を集めると発見の幅が広がります。また慣れていない場合は、調査会社のエスノグラフィーを専門にしている調査員と一緒に行くことも効果的です。

 観察のコツは、なるだけ先入観を捨て、ありのままを見ることです。ありがちな失敗は、ユニークな点だけに注目しようとして、実は大事な意味を持っている些細な動きを見逃してしまうことです。

 何が重要で何が重要でないかは、観察後から考えればよいので、この場では判断をしません。

 また、生活環境やインテリア、使っている道具なども、ユーザーの嗜好を理解するのに大事な要素となります。

 多くの場合、行動観察が終わってから対象者にインタビューをします。観察の途中で質問をすると、それがバイアスとなって、いつもと違った行動を促してしまうこともあります。そのため、インタビューは原則的に後からまとめて聞くことをおすすめします。

 インタビューでは、行動観察で発見した行動の意味を明らかにするように聞いていきます。

 このときは、Step3でリストアップしたことが網羅されたかを意識してください。足りないことがあれば、この場で聞いたり、追加で見せてもらったりします。

 調査が終わったら、時間が経たないうちに関係者であつまって結果を振り返ります。訪問していないメンバーを含んでも構いません。ビデオや写真を見ながら行うので、時間は長めに取ったほうがよいでしょう。

 対象者ごと、場面ごとに、対象者の行動で気がづいた事実をどんどん出していきます。ポストイットなどに書いて、貼っていくのもよいでしょう。

 続いて、そのときどんな気持ちだっただろうか、どうしてこの行動をしたのだろうか、など行動の意味を解釈していきます。小さなことも見逃さず、掘り下げていきましょう。ポストイットを使う場合は、さきほどとは違う色のものに書くと、客観的な事実と主観的な解釈の区別が明確にできるのでおすすめです。

 よくわからない行動をする人がいても、「少し変わった人なんだろう」と片づけてしまわないようにすることも大切です。すぐに理解できない行動こそ、隠れたニーズの発見につながることがよくあります。

 このようにして、発見した行動の解釈を徹底的にディスカッションすることで、自分だけでは気がつかなかったことに辿りつくことがあります。行動を表面的に知るだけに終わらせないために、このステップは非常に重要な意味を持っています。

 振り返りをした結果に基づいて、明らかになったことをまとめていきます。レポートの中では、対象者が実際に取っていた行動と、その解釈は区別して書きます。

 結果を整理して、後から振り返りやすくするために、対象者ひとりひとりを個票にまとめていくこともあります。それぞれの人のストーリーがリアルに浮かび上がるよう、撮影した写真も掲載して作り上げます。

 レポートで大事なことは、調査目的に立ち返り、活用したいことに合わせてサマリーや結論をまとめ上げることです。定性的な情報であっても、サマリーでは以下の例のようにロジカルにまとめると社内で活用しやすくなります。

例1.特異な行動から潜在的不満を発見する

例1.特異な行動から潜在的不満を発見する

例2.複数の行動から、共通する意味を発見する

例2.複数の行動から、共通する意味を発見する

 逆に、よくある使われづらいレポートは、以下のようなものです。
 ・写真や事実をランダムに掲載するだけ
 ・観察した事実と、解釈や結論の繋がりが不明瞭

 エスノグラフィーのまとめ方に決まったフォーマットはありませんが、分析が客観的に伝わるよう工夫をしてレポートをまとめましょう。

 調査を実施して顧客を理解したことに満足してしまい、そのまま放っておかれる……ということがエスノグラフィーでは特に起こりやすい失敗です。

 分析が終わったら必ず関係者で共有し、そこからアイディアをだしたり、戦略を議論したりします。その際には、撮影した写真やビデオ、まとめた個票なども持ち込み、具体的な現場をイメージできるようにすると良いでしょう。

 自分たちが向き合う顧客が、よりスムーズに、より楽しく過ごせるように、会社はどんなユーザー体験を提供できるだろうか、それを顧客中心の視点で考えていくプロセスになります。

 最後に、エスノグラフィーを実践するときに、具体的な手順とは別に知っておくと失敗につながりにくいポイントをご紹介します。

 エスノグラフィーはだいたい何人くらい見ればいいものですか? とよく聞かれますが、これは目的次第なので一概には言えないものです。

 ただ、あくまで通常の目安として、1回の調査で10人以内、1つの属性に対して3~4人程度を筆者はすすめています。

 エスノグラフィーは実査・分析に労力がかかるため、対象者が多いと膨大な時間がかかってしまい、丁寧に解釈しきれなくなってしまう危険があります。それと同時に、ある属性について1人だけだと、その人の固有の事情の影響が強すぎてしまうからです。

 調査にどのくらいの時間をかけられるかも考えながら、適切な人数を決めていきましょう。

 エスノグラフィーは、あくまで限られた人数を対象にした定性調査です。対象者の行動、発言、生活環境などから課題や潜在ニーズを発見する目的で行います。

 そこから考えたアイディアが、どの程度の人に好まれるかを知りたい場合は、別の定量調査などを実施して検証する必要があります。こういった調査を実施する場合は、ある程度アイディアを具体化させてから、その魅力度を調査するとよいでしょう。

 エスノグラフィーを実施するときは、事前にチームで議論したり、実施後にディスカッションをしたりすることで解釈の幅がぐっと広がります。このときは、役職や経験は関係なく、すべての人がフラットに意見を言える環境が大事です。

 誰が正しいとかはありません。いろんな人がいろんな立場から疑問や発見、解釈を机の上にあげて、それを皆でオープンに議論できる環境があってこそ、顧客の心理に近づく一歩になります。

 行動観察に慣れていないと「何も発見できないのではないか」と不安になるという声もよく聞きます。そこで初めて実施する場合は、事前演習をすることをおすすめしています。

 題材は何でも構いません。例えば自分の両親が何かをするところを観察させてもらって、気づきをどんどん書き出していく、電車で向かいに座っている人を観察して、そこから読み取れることを10個メモする、といったイメージです。

 エスノグラフィーを成功させるのは、率直にいって簡単なことではありません。しかし上手くいけば、顕在化していなかった課題やニーズをいち早く発見して、新たなビジネスチャンスにつなげることができます。

 また、人の動きや発言を解釈することで深層心理に迫り、そこからアイディアを考えるプロセスは、ビジネスの醍醐味とも言えるでしょう。

 この記事で紹介したコツも参考にエスノグラフィーをうまく活用して、ビジネスにイノベーションを起こすきっかけになれば幸いです。

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