アンソニー・ザーカー、北米担当記者
新型コロナウイルスのちょっとした夏休みは終わった。アメリカの多くの州でまた感染者が増加している。とくに南部と西部の州で顕著だ。
今週に入り、アメリカ全土で報告された新規感染者数は1日あたり6万人を超えている。
こうなることは避けられなかったのか?
欧州やアジアの開発国は、より厳しい対策を取り、もっと早期にウイルス検査と追跡調査を増やし、比較的ゆっくり、かつ調整しながら規制を緩めていった。
そうした国々では、少なくともこれまでのところ、アメリカで起きているほどの感染の再流行は確認されていない。
新規感染者で見ると、アリゾナ州で日々見つかっている人数は、欧州連合(EU)加盟国全体で報告されている人数に匹敵する。人口はEUのほうが60倍多いのにだ。
アメリカで大流行が発生してから丸5カ月が過ぎ、終わりが見えない中、何がうまく行き、何が(ほとんどではあるが)まずいことになったのか、現状から陰鬱(いんうつ)な検討が可能となっている。
<まずかったこと>
各州の再開が早過ぎた
1カ月前、アメリカの新型ウイルス関連の数字は、曲がりなりにも落ち着いていた。感染拡大の速度は落ち、日別感染者数は横ばいになった。
それが、テキサス、カリフォルニア、フロリダ、アリゾナなど多くの州で、屋内退避と店舗閉鎖の緩和を後押しした。
だが、そうした州の多くでは、疾病対策センター(CDC)が示した基準(感染者数が2週間続けて減少、ウイルス検査の陽性率が5%未満など)が満たされていなかった。
全国的な数値も誤解を生むものだった。ニューヨークやニュージャージーなど、大きな影響が早期に出た州で減少に転じる中、それ以外の州ではじわじわ増加し始めていたことが判明している。
今や増加はじわじわではなく、急激なものとなっている。入院患者数と死者数は、今後まだ悪化する恐れがある。
テキサス、カリフォルニア、アリゾナなどの州は現在、商店の営業停止命令や、ウイルス拡散を抑制するとされるマスクの着用命令を再び出している。ただ、さらなる公衆衛生の危機を防ぐには、不十分かもしれない。
「アリゾナ州の再開は早過ぎた」と、同州フィーニックスのケイト・ガイエゴ市長(民主党)はテレビのインタビューで話した。「私たちの州は自宅待機を最後に指示し、最初に解除した州の1つだ」。
テキサス州では20日、入院患者数が8181人に上り、最高記録を更新した。アリゾナ州では、ウイルス検査の陽性率が14%となっている。
初期段階では感染拡大を抑えた成功例とされたカリフォルニア州では、ここ2週間で感染者が90%増加。州政府が5月に、商店再開の判断を州内の自治体に大きく委ねた結果だ。
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感染者の急増は、ウイルス検査の遅れと不足を再び引き起こしている。ウイルス検査は最初こそスムーズに進まなかったが、その後はアメリカの強みと思われてきたことだ。
適切な検査ができなければ、新規感染者や感染拡大地点を特定し、隔離することはかなり難しくなる。
「ニューヨークで大流行したピーク時に戻ってしまった」と、食品医薬品局(FDA)のスコット・ゴットリーブ元長官は20日、テレビのインタビューで述べた。
ただ少なくとも今のところ、1日あたりの死者はニューヨークで大流行した時期ほどには達していない。しかし現状のまま進行すれば、それも時間の問題だろう。
「もう手遅れだ」と、ニューヨーク市の内科医でマウントサイナイ医科大学教授(心臓病学)のルイザ・ペトリ氏は言う。「この大流行を抑えることは極めて難しい局面に入っており、逆戻りは不可能だ」。
マスク着用が党派性を帯びた
新型ウイルスの拡散を制限する最善の方法の1つであるマスク着用が、党派争いに巻き込まれてしまっている。公衆衛生当局の警告にもかかわらず、いくつかの州は「再開」を優先する決定をしているが、マスクをめぐる争いが状況を一段と悪化させている。
政府によるマスク着用の義務化に対しては、保守派の抵抗はいっそう強固になる。
「カンザス州民は最善の決定をするのに、ローラ・ケリーも過保護な州政府も必要ない」と、同州共和党の連邦下院議員候補のビル・クリフォード氏は、民主党のケリー知事によるマスク着用命令について話した。「州によるマスク義務化は、アメリカの土台となっている個人の自由と地方自治の原則に反する」。
ドナルド・トランプ大統領もこの分断に一役買っている。記者会見でマスクを取ろうとしない記者を「政治的に正しい」とあざけり、民主党のジョー・バイデン大統領候補のマスク姿の写真は民主党のイメージを傷つけているとした、FOXニュース記者のツイートをリツイートした。
大統領は公務の場でマスクを着けることを断固として拒んできた。その姿勢は明らかに彼の支持者の共感を得ている。オクラホマ州タルサで6月にあったトランプ氏の選挙集会では、参加者のほとんどがマスクを着用せず、他人との距離の確保についても気にしていなかった。
公衆衛生当局にも責任の一端はある。当初、マスクは前線にいる医療従事者にとってだけ役立つと明言していた。
そうした声明の真の狙いは、限りあるマスクを最も必要としている人のために取っておくことだったのかもしれない。だが流行が進むにつれ、メッセージは混乱し、揺らぐ結果となった。
人々が現状に満足した
いくつかの州政府が公共の場での集会に関する制限を緩和し、商店の再開を認めてきた。その際、個人に対しては、医療上の助言と常識をもとに、自ら判断するよう勧告することが多い。
ただそうした勧告は、控えめに言っても、いつも聞き入れられているわけではない。
夏休みになると、マスクをしていない集団が再開したバーやレストラン、公園、ビーチに繰り出した。ここ1カ月で全米に広がった反人種差別の抗議行動では、マスク姿はすっかり見慣れた光景となったが、社会的距離は実質的にまったく取られていない。
最近の新型ウイルスの急増に関する統計からは、新規感染者の多くが若いアメリカ人だということがわかる。若者は、人と直接会う交流を素早く再開させるのが特徴だ。大統領を含む一部の政治家たちには、若くて健康な人は新型ウイルスを恐れることはないとして、そうした行動を実質的に推奨してきた。
「今や4000万人以上を検査した」とトランプ氏は19日、ツイートした。「そうすることで、感染者の99%はまったく無害なことがわかった」。
その発言は、新型ウイルス感染者の5分の1で呼吸器系に深刻な機能不全が見られるとする、公衆衛生の研究に逆行する。
FDAのスティーヴン・ハーン長官は20日、「ホワイハウスの実務部隊にデータがある」と述べ、トランプ氏が挙げた99%という数字を間違いだと言うことを拒んだ。「それらのデータは、これが深刻な問題であることを示している。みんな真剣に受け止める必要がある」。
しかし、新型ウイルスの感染症の深刻さは大したことないと主張する大統領は、部下の警告の言葉を台無しにしかねない。
教育が危機的状況に近づいた
新型ウイルス感染の再増加は、数カ月後に爆発する爆弾に火をつけた。9月は全米で子どもたちが学校に戻る時期だが、通常の学習体験とは大きく異なるものが待ち構えていることが明らかになってきている。
学校当局は、新学年の計画を公表し始めている。多くの場合、対面と遠隔学習を交ぜたものになっており、学校が新型ウイルス感染流行の現場となることを回避したいという願いが表れている。
教員組合の一部はすでに、高齢で健康問題のある人も含めた教員たちが、予防対策や準備の不十分な教室に戻ることに反対している。
「私たちの教員の圧倒的多数は、学校に戻ることに不安を感じている」と、首都ワシントン地区の教員組合のトップは記した。「自らの命、生徒の命、家族の命を心配している」。
一方で親たちも、職場に戻るよう言われる中、事実上のホームスクーリング(自宅学習)が増え、子どもの面倒もみなくてはならない状況に直面している。
トランプ氏は、2016年の選挙戦で各地の教育制度に連邦政府が関与することに反対していたにもかかわらず、今や学校に対して日程どおりに再開するよう圧力をかけている。疾病対策センター(CDC)に対しても、ガイダンスを改定し、子どもたちが校舎に戻りやすくするよう要求。従わない場合は連邦予算をカットすると脅している。
共和党が政権を握り、新型ウイルスの感染が拡大中のフロリダ州は、8月末に学校を再開するよう命じている。
大統領がツイッターで発する言葉が、新型ウイルス対策の別の側面を政治問題化させるのは必至だろう。各地の当局者は再び、地域の人々の健康に対する懸念と、通常の生活に戻ることへの願望のバランスを取るという、難しい立場に置かれることになる。
<うまくいったこと>
ニューヨークが回復した
アメリカの南部と西部の多くの州で新型ウイルスの状況がますます悪化している一方、一時は流行の中心地だったニューヨーク州では著しく改善している。
1日あたりの死者は、4月8日に799人の最多を記録した後、1桁に減っている。同州の18日のウイルス検査の陽性率はわずか1.38%だった。
他の地域でロックダウン(都市封鎖)の制限が再導入される中、ニューヨークは多くの公共施設や、美容院やタトゥー(入れ墨)ショップ、若者のスポーツ活動などの民間のビジネスを再開させた。ただ、レストランの閉鎖は続けている。
「ニューヨークで起きたことは、他の州が注目し、より中央集権的な戦略を作るために学ぶ教訓となるべきだった」と、ニューヨーク市の心臓病学者のペトリ氏は言う。「ニューヨークは成功物語だ」。
ニューヨーク州が制限の緩和を続けることで、新型ウイルスがまた勢いを増す危険性がある。
「地獄を脱したが、まだ終わったわけではない」と同州のアンドリュー・クオモ知事は述べた。「この国やこの州のどこでまた、醜い頭角を現すかわからない」。
経済が安定した――今のところ
アメリカの経済が次の大恐慌に向かう途中で、おかしな事が起こった。絶望的に急降下するとの多くの人の予測に反し、安定し、改善し始めたのだ。
5月の失業率は20%を超えるとみられていたが、実際は13.3%だった。さらに6月には11.4%に減少。雇用市場の出血が予測よりずっと早く止まったことを示した。
一方、主要株式指数は冬の終わりに落ち込んだ後、盛り返した。2月に最高値を記録してから下落していたダウ工業株平均は、6月2日まで66%の回復をみせた。株式市場の状況をより幅広く反映するスタンダード&プアーズ(S&P)500種株価指数は、今年に入ってからの落ち込みの77%をばん回した。
他の経済指数も同様に、経済回復の兆候を示している。
回復の主な原動力となっているのが、各州による新型ウイルス関連の規制緩和と、深刻な影響を受けた企業や個人に対する連邦政府の経済支援だ。
ただ、いくつかの州が再び商店が閉鎖していることからは、経済をめぐるこの朗報が短期的なものとなる可能性がうかがえる。
連邦議会が決定した経済刺激策の多くは、自然消滅したか、近いうちに期限切れとなる。さらなる刺激策の見込みは薄い。
「この危機の影響が最短でも今年末まで続くことが明らかになった今、あのような救済策では不十分だ」と、個人資金管理ウェブサイト「ウォレットハブ」(Wallethub)のアナリスト、ジル・ゴンザレス氏は話す。
科学が進歩した
新型ウイルスが各州を次々と襲っている中、米医療界は、治療法と最終的にはワクチンの開発に向けた努力を続けている。
抗ウイルス薬のレムデシビルは、入院患者の病状を深刻化させない可能性を示している(そのため米政府はこの薬のメーカーと、アメリカの患者への提供を優先する契約を結んだ)。
最近の研究では、一般的に普及しているステロイドのデキサメタゾンが、人工呼吸器を使っている患者の死亡リスクを約3割減らすとされている。
新型ウイルス感染症COVID-19から回復した人の血しょうが治療に役立つことを示す、「希望のもてる兆候」があるとする専門家もいる。血しょうについては現在、臨床研究が続けられている。
「医療は光の速さで進化している」とペトリ氏は言う。「政府は製薬会社と協力し、多くが成し遂げられた。これはいいことだ」。
ワクチン開発では、いくつかの製薬会社が初期段階の試験でよい結果が得られたと報告している。
大統領は遅くとも年末までにはワクチンが利用可能になると約束している。だが医療専門家らは、そうしたスケジュールは到底確実とは言えないと警告している。
米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)所長のアンソニー・ファウチ博士はワクチンについて、2021年までに準備されると科学者らは「熱い希望を抱いている」と言うにとどめている。
アメリカ人の暮らしが通常に戻れるかどうかは、安全で信頼できるワクチンの開発にますますかかっていると言える。そうした状況では、希望こそ大事になってくる。
感染対策
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September 27, 2020 at 11:21AM
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【解説】 アメリカの新型ウイルス対策 何が失敗し、何がうまくいったのか - BBCニュース
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