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【書評】『団体旅行の文化史 旅の大衆化とその系譜』山本志乃著 参詣・親睦・修養 名分立てる - 産経ニュース

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山本志乃著『団体旅行の文化史 旅の大衆化とその系譜』(創元社)
山本志乃著『団体旅行の文化史 旅の大衆化とその系譜』(創元社)

令和の時世に「不要不急の旅行は控えましょう」という戦時中のような呼びかけに応じたかと思えば、「Go To トラベル」政策の推進下でコロナ禍のさなかに旅行へ出かけた日本国民の何と多いことか。近代以前から事実上の遊山旅行に親しみつつも、旅行に大義名分を求めようとする日本人らしい。

領主が土地の支配権を持つ社会では、人々が自由に他の土地へ移動することは難しい。ゆえに通常、旅行の自由はない。

ところが日本では江戸時代以降、伊勢神宮への参拝目的であれば通行手形が容易に発行され、「抜け参り」と呼ばれる無許可旅行さえも黙認された。日本各地に伊勢参りのグループ(講)が形成され、その代表者が毎年交代で参詣した。迎え入れる伊勢側は神職の御師(おし)が宿泊や食事の世話、現地のガイド、荷物の配送まで請け負うなど、トーマス・クック顔負けの総合旅行業的役割を担っていた。

本書はこうした近代以前の伊勢参りの仕組みと団体単位での旅行スタイルが、明治以降の日本人に引き継がれていった歴史を、さまざまな旅行形態を切り口にひもといている。とりわけ、学術修養などの名目で国民的学校行事として定着している修学旅行の変遷に関する解説は、老若男女を問わず多くの読者にとって自分事としての体験を持つだけに、身近な生活文化史として受け止めやすい。

他にも、戦前は戦勝祈願、戦後は戦没者慰霊を目的とした団体参詣、あるいは親睦目的の社員旅行など、本書に例示されている団体旅行の多くは、何らかの大義名分を掲げている。旅行へ出かけるのに大義名分を要したという点は、江戸時代から昭和中期まで変わらなかったのだ。本書に登場する多様な団体旅行の形態を見ていると、旅費の抑制や手配の合理性という実利もさることながら、大義名分が個人旅行より立てやすいという性質も、団体旅行による旅の大衆化が進んだ要因ではないかと思えてくる。

というふうに旅行のことをあれこれ考えながら本書を読了した後は、自分も早く旅行に出たくなること請け合いである。旅行自粛の禁断症状かもしれないので、長らく不要不急の旅行をしていない読者はご注意を。(創元社・3520円)

評・小牟田哲彦(作家)

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October 31, 2021 at 07:00AM
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