休耕地再生草刈り機、買うよりカウ！？那須でビジネス実験 - 東京新聞

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２頭のウシを放牧することできれいな農地に戻った休耕地。以前は大人の背丈ほどの草木が生い茂っていたそう

　草を食べる牛の力で荒れた休耕農地をよみがえらせる。そんなレンタカウ（貸し牛）ビジネスの実証実験が栃木県那須町で始まった。仕掛けるのは、原発被災地の福島県大熊町で被災牛を救うために活動してきたボランティア団体もーもーガーデン。「帰還困難区域の厳しい環境の中で蓄えたノウハウを地球の環境保全に役立てたい」。今年はうし年でもあるし、大きな夢が実を結ぶか。

　雪化粧の那須連峰を望む草の斜面で二頭の牛がのんびりと草をはんでいた。

飼料を食べる「クロゴマプリン」（左）と「アカリ」

　黒い方がクロゴマプリン（オス、二歳）、薄い茶色がアカリ（メス、九歳）。いずれも神奈川県平塚市から草刈りのために派遣されてきたレンタカウだ。

　「牛の力はすごいね」としみじみ語るのは高橋康宏さん（７５）。高橋さんの家は代々の農家で父の代まで酪農を営んでいたが、五十年ほど前に廃業した。以後、三十ヘクタールほどの草地は荒れ放題で、人の背丈以上の雑草が生い茂っていた。

クロゴマプリンに飼料を与える高橋康宏さん

　ところが昨年七月、草地に、二頭を放すと、二頭はブルドーザーのような勢いで雑草を食べ始め、またたくまに荒れ地を視界の広がる空間に変えてしまった。

　クロゴマプリンの持ち主は世田谷区で歯科医院を営む田中良枝さん（５７）。「友人の実家の牧場に遊びに行って、人懐こい牛に出合ってしまいました。この牛が三カ月後には市場に出されると聞いて、衝動的に買い取ってしまった」

　両者の事情を知って仲介役をしたのが、もーもーガーデンだった。高橋さんの土地に電気柵を作り、クロゴマプリンを放した。母親役のアカリも同じ平塚の牧場から借りてきた。

栃木県那須町で牛の貸し出しビジネスを始めた「もーもーガーデン」の谷咲月さん

　高橋さんは、エサが少ない冬場に乾燥した牧草を与えるなど最低限の世話をし、その対価として遊休農地の保全を実現した。

　一方、牛のオーナーの田中さんは、えさ代、仲介料として毎月一定額を払い、牛に会いたくなると那須へ出かける。東京にいるときも観察用カメラを通じて牛を見ることができ、スピーカーで話し掛けることもできる。クロゴマプリンは田中さんの声を聞き分けて、カメラにすり寄って来て甘えるという。「この癒やしは何にも代えがたい」と田中さん。こうして双方満足の関係が生まれた。

　もーもーガーデンは、八年前に東京電力福島第一原発の事故で住民避難が続く福島県大熊町で誕生。被ばくして家畜としての価値を失った牛を生かすため、放棄された農地の保全に活用する活動を続けてきた。

　現在も帰還困難区域で十一頭の牛が「草刈り隊」として働いているが、実は耕作放棄地問題は原発事故の被災地の外にも存在する。

　農林水産省の統計によると、農業の後継者不足などで全国の耕作放棄地は増え続け、二〇〇五年には東京都の面積の一・八倍に相当する三八・六万ヘクタールに達した。荒れ地は景観を損ね、イノシシやクマなど野生動物の生息地となって農村の疲弊の原因のひとつともなる。