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日本企業の宇宙ビジネスの可能性―第1回― - PwC

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2.Nebulas企業における課題

Nebulas企業は、宇宙ビジネスへ参入し、事業を成功に導くにあたってどのような課題を抱えているのでしょうか。
本章では、Nebulas企業が直面し得る主な課題について、宇宙ビジネス全体に共通するもの、個別の事業領域で特に課題となるもの、それぞれの切り口から課題発生の背景を考察していきます。

宇宙ビジネス全体に共通するものとしては、主に下記が挙げられます。

①市場理解・法規制への対応
②リソースや知財に関する課題

また、個別の事業領域としては、最近非常に注目を集めている「リモートセンシングや位置情報などの衛星データ利活用ビジネス」に着目します。本領域においては、下記が特に大きな課題として挙げられます。

③ユースケースの創出

Nebulas企業の中には、明確なVisionと戦略、ロードマップを定めたうえで、実現に向けた実行フェーズで課題に直面している企業も存在しますが、今回はVisionを明確化し、ロードマップを描いて投資判断を得るところまでを考察の対象としています。理由は、市場が未成熟であることや法規制など宇宙ビジネスならではの観点により、事業の具体化や投資判断を得る際の難易度が高く、ここで壁にぶつかるケースが数多く見受けられるためです。

それでは、それぞれの課題を具体的に見ていきましょう。

①市場理解・法規制への対応

宇宙ビジネスへの参入にあたり、宇宙ビジネス全体の市場について理解を深めつつ、自社が展開しようとしている事業領域について深掘りしていく必要があります。

ただし、序論でも述べたとおり、宇宙ビジネスは各国・各社がさまざまな考え方で事業領域を定義しており、グローバルで明確に統一された考え方は現時点では存在していません。

そのため、調査のアプローチが立てにくく、市場理解に多くの時間・費用を費やしてしまったり、適切な理解が得られないまま事業を進めようとしたりするケースが見受けられます。

また、宇宙ビジネスの市場規模として、グローバルの占める割合が大きいことから、グローバル視点での市場調査が必要となる一方で、海外市場を含めたマーケットの具体的な定量調査まで実施できず、適切な投資判断を得られないといった課題も散見されます。

さらに、事業領域によっては参考となるような先行事例が少なく、デスクトップ調査のみでは実際にビジネスを進めるうえで必要となるような詳細な情報まで収集しきれないケースも多々あります。

同様に法規制についても、宇宙ビジネスという特質から、宇宙に関わる国際的な法規制や許認可、各種申請など日本国に限らず海外の政府・企業との調整が必要な局面も多いため、ビジネスを推進する事前準備として、以下に記載するようなグローバル基準でのルールや技術的な専門知識を理解する必要があります。

なお、宇宙ビジネスに関する法規制については、まだまだ整備が不十分でルールが曖昧な部分が多く、昨今各国それぞれで法規制の整備が進められているような状況であるため、自社が展開する事業領域に加えて、宇宙ビジネスに関する法規制のトレンドをタイムリーに押さえなければなりません。

  • 宇宙ビジネスの実現に必要となる専門知見(一例)

・グローバルトレンド
宇宙ビジネス全体の動向として、政府機関や古くから航空宇宙産業が進めてきた従来型の宇宙開発(Old Space)に対して、異業種からの参入やベンチャー企業、民間宇宙団体などの新興勢力によって進められる宇宙開発(New Space)の台頭が目覚ましくなっています。

中でも、リモートセンシングなど衛星データの利活用ビジネスは、これまで宇宙ビジネスと関係のなかった企業にとってもイメージがしやすく、ロケットやローバー(惑星〔衛星〕探査車)などの莫大な費用を要する専用機開発が不要であるうえ、新規参入における障壁が比較的低いこともあり、参入企業が増えています。

また、衛星通信領域についても、各国の衛星事業者や通信事業者が本格的にビジネスとして事業展開する動きが出てきています。衛星だけではなく、「HAPS(グライダー型の中継基地局)」などの成層圏を無人飛行する基地局も活用する動きが出てきており、地球上で地上ネットワークがないエリアにインターネットを提供することを目指しています。生活をより豊かにするための宇宙利用という観点で今後大きな発展が見込まれる領域です。

さらに最近では、2020年代中頃以降に本格的な月面進出を目指す動きが各国で始まっており、経済圏がいよいよ月面にまで拡大しようとしています。米国主導の月面探査プログラムである「アルテミス計画」など、中長期的な国際連携プログラムも存在し官民連携で月面を目指しており、日本企業も数多くの企業が月面ビジネスを見据えて活動を始めています。

・自社Visionに関連するキープレーヤー
宇宙ビジネスの中でも、事業領域によってキープレーヤーが異なります。自社が掲げるVisionに関連するキープレーヤーを把握することで、「競合」としてだけではなく「協業先」としての可能性を見いだし、自社ビジネスのさらなる広がりを模索できます。宇宙ビジネスの実現には多くの情報・技術が必要となるため、すでにキープレーヤーとして宇宙ビジネスに参画する組織とのコネクションは重要かつ有益です。

・法律
宇宙に関連した法律として、日本国内では「宇宙活動法」「衛星リモセン法」「宇宙資源法」など、国際的には「宇宙条約」「宇宙救助返還協定」「宇宙損害責任条約」「宇宙物体登録条約」「月協定」などがあります。これらは宇宙ビジネスに参入する企業にとって押さえておくべき重要な法律であり、自社で検討している宇宙ビジネスにどのように関連するかを理解しておくことも重要です。

また、十分に法律が整備されていない領域のため、各国がそれぞれの思惑を持って動いている面もあり、タイムリーに動向を把握しておくことも必要です。ビジネスと法律は密接に関係し、特に宇宙ビジネスでは実現しようとしていることと、各国それぞれの法律との関係について把握をしていないと事業破綻につながる大きなリスクになり得ます。

②リソースや知財に関する課題

Nebulas企業が宇宙ビジネスへ新規参入する際、リソースや知財に関連して大きな課題となり得るものとして、以下の3点が挙げられます。

A.社内的なリソース確保
B.技術活用のための知財戦略
C.経営層による投資判断

前項「市場理解・法規制への対応」で触れたように、宇宙ビジネスはまだまだ市場そのものが未成熟な領域であることから、経営層からすると宇宙ビジネスに参入する意義や、参入した結果得られるものが見えづらく、事業化のための十分な投資判断が得られないなど、事業化そのものを断念せざるを得ないケースもあると考えられます。

A.社内的な人的リソース確保

Nebulas企業においては、宇宙ビジネスへの参入について、トップダウン型ではなく、ボトムアップ型による社員などの「想い」主導で始まるケースも散見されます。その際、他業務との兼ね合いで、Visionに関する想いを持ったメンバーがフルコミットできず、事業化におけるプロジェクト推進力に課題を抱えることがあります。結果としてマンパワー不足に陥り、業界のスピード感についていけず、上手く事業化につなげられないケースも発生します。

また、他部署や社内の協力を得られず、意思決定ができる人や客観的にプロジェクトを俯瞰できる人・アイデア出しができる人がいない状態で、具体的な事業化に結びつかないといったパターンも存在します。

こういった課題の発生背景としては、上層部からの理解を得られず必要なリソースを十分投入できない状況によるところが多いと言えます。

B.技術活用のための知財戦略

これから宇宙ビジネスに参入するにあたり、技術活用は不可欠であり知財戦略は非常に重要な要素の1つです。宇宙ビジネスに関しては、前述したとおりそもそも市場理解が難しく、法規制対応も必要な中で、他の企業がどの分野に・どの程度特許出願を行っているのかを十分に把握し、自社の置かれている状況を知ることが肝要です。研究開発投資を行った結果、すでに他社にて特許化されていた場合には、投資の回収が困難となってしまうので、研究開発前の段階から特許調査を行う必要があります。

また、自社が検討した事業において特許出願が多かった場合は、研究開発の実施や、製品・サービスの展開の際に、それら既存の特許を侵害しないことはもちろん、どの分野に・どのような特許出願をしていくべきなのかを検討することが求められます。

その際、海外を含む他社の特許動向を詳細に把握することは難易度も非常に高く、グローバル視点での技術・ビジネスケースの調査に時間がかかるケースが多くあります。さらに、これらの調査結果を踏まえて自社が狙うべき分野の特定やマーケットへの参入戦略を立てることに難航するケースも想定されます。

C.経営層による投資判断

宇宙ビジネスにおいては、コストインパクトも巨額で回収目処も不確定要素が多く、長期的な計画になりがちです。そのため、経営層にとっては投資判断が難しく、必要なリソースが得られずに事業化を断念するケースも見受けられます。

巨額な投資が必要となる背景として、例えば、宇宙空間や月面など地球とは異なる環境下でのビジネスに関して、技術的な難易度から研究開発コストがかさんでしまうことが最も大きな原因だと言えます。さらに、研究開発に向けての人的リソース確保や、専門知識を有する人財とのネットワーク構築が不可欠であることも原因の1つに挙げられます。

また、回収目途を立てにくい背景としては、以下2点が原因として考えられます。

・投資回収目処を判断できるような先行事例やナレッジが少なく、事業性評価が難しい。
・既存事業とのシナジー効果の評価が難しい。

上記のように、宇宙ビジネスにおいては投資金額の規模が巨額になること、投資回収目処の判断が難しいことから、十分な投資に踏み切ることができていない企業が多いと言えます。

加えて、Nebulas企業においては異業種からの宇宙ビジネス参画になるケースが多く、経営層の宇宙関連情報に対する理解不足により、根本的に興味関心を抱いてもらいにくい可能性があります。

そのため、宇宙ビジネスにおいては、経営層への市場規模やトレンドに関する徹底的な情報共有を踏まえ、副次的効果を加味した投資回収の可能性をいかに感じさせられるかが投資判断を仰ぐうえでの重要な課題となります。

③ユースケースの創出

個別の事業領域として特に最近注目されているのが、リモートセンシングや位置情報に関連する衛星データ利活用ビジネスです。本領域はロケットや衛星開発などと比較すると、自社でハードを開発する必要がないため多くの企業が参入を検討しています。

衛星データの利活用を検討する際にまずぶつかる壁として、ユーザーサイドとデータプロバイダ間では衛星データに関する大きなGAPが発生することが挙げられます。

ユーザーサイドは、衛星データ関連の知識やノウハウ不足から「何にでも活用可能、どのような課題でも解決できるソリューションである」といった高い期待値をもって活用を検討することが多いと言えます。

一方、データプロバイダ側は各社それぞれの衛星規格でデータを取得・提供しており、プロバイダ間での規格統一が難しいことから、各社のデータを収集し、分析・データ活用することへの難易度は非常に高くなっています。

また、昨今は改良が進んでいるものの、現在の技術的要因から衛星より取得できるデータは質・量的に限りがあり、実際に使えるデータとユーザーニーズとの間のGAPは非常に大きく、想定以上にコストや時間がかかってしまうことが多いのが実情です。こうしたGAPを乗り越えられず、事業化を断念するケースも度々見受けられます。

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September 29, 2022 at 08:51AM
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