世界に革新を起こした起業家や経営者はリスクを取って挑戦したからこそ、先駆者や開拓者と呼ばれた。
米アップル創業者のスティーブ・ジョブズは、「偉大になりたければ危険を冒せ」といった。石油王のジョン・ロックフェラーもこんな言葉を残している。
「もし、あなたが成功したいなら、多くの成功者によって踏みならされた道を行くのではなく、新たな道を切り開くことだ」
挑戦したからといって成功する保証はない。だが未開の地へ一歩を踏み出すことこそが、新たなビジネスの種を生み出すのだ。
2022年11月11日。日本から世界を目指すロックバンド「THE LAST ROCKSTARS」の結成が発表された。メンバーはYOSHIKI(X JAPAN)、HYDE(L'Arc〜en〜Ciel/VAMPS)、SUGIZO(LUNA SEA/X JAPAN)、MIYAVIの4人だ。
記者会見には国内だけでなく、多くの海外メディアも参加し、世界的な注目度の高さを裏付けた。
12月20日には世界3大音楽レーベルの一つであるユニバーサル ミュージック グループと全世界契約を結んだことを発表。YOSHIKIは結成の狙いを、米国で最も権威のある音楽メディア、ビルボード誌の取材でこう答えている。
「僕たちは全員、日本の音楽市場を超えて国際的な音楽市場を目指そうと話し合っていました。4人とも同じ夢と目標があったので、やってみようということになりました」
会見でもYOSHIKIは「(このバンドはスーパーヒーローが集まる米映画の)『アベンジャーズ』みたいなものだと思っていただければ」と話した。その言葉通り、4人はそれぞれ著名なアーティストでありながら、全員が卓越した音楽プロデューサーでもある。
中でもYOSHIKIはX JAPANとして1992年に米アトランティック・レコーズと契約を発表してから30年以上にわたり、日本の音楽シーンをけん引し、海外の市場に挑戦してきた。
92年8月に、米ロックフェラー・センターで開いた世界進出会見では、現地の記者から「他の才能のあるバンドでさえあまり成功をしているとはいえないのに、なぜ成功するといえるんでしょうか」「実際、英語が母国語でないバンドが米国で成功した前例はないのに、なぜ成功するとお考えなのですか」といった厳しい質問が飛んでいる。
だがYOSHIKIはその後、日本発のアーティストとして前例のない業績を積み重ねてきた。国内では「天皇陛下御即位十年をお祝いする国民祭典」のための奉祝曲、「2005年日本国際博覧会(愛知万博)」の公式イメージ・ソングといった仕事に加え、海外でもハリウッド映画のテーマ・ソング、米ゴールデングローブ賞の公式テーマ・ソングを手掛けるなどグローバルな活動を続けている。
X JAPANでは米マディソン・スクエア・ガーデン(MSG)と米カーネギーホール、英ウェンブリー・アリーナと、アジア人として初めて音楽の世界三大聖地で公演を成功させた。
トレンドが目まぐるしく変わる音楽の市場でこれだけの期間、業界を引っ張ってきた原動力は何なのだろうか。なぜ、THE LAST ROCKSTARSの4人はそれぞれのバンドを持ちながら、批判を覚悟で新たなバンドを結成するに至ったのか。そして日本の音楽業界の課題をどう捉えているのか。
世界の市場に挑んできたYOSHIKIを中心に、音楽ビジネスの課題と、同バンドによって新たな挑戦を始めた理由を聞いた。
世界で躍進したK-POP 停滞したJ-POP
世界に旋風(せんぷう)を巻き起こす――。
この志のもとにTHE LAST ROCKSTARSは結成された。YOSHIKIは会見でも「日本から世界に挑戦する」と何度も話している。なぜ“世界”なのだろうか。
アジアの音楽業界を見渡せば、この数年間で躍進したのは間違いなくK-POPだろう。BTSやBLACKPINKなど世界的なアーティストを輩出し続けている。
世界のレコード業界を代表する「国際レコード・ビデオ製作者連盟(IFPI)」は、「年間最優秀アーティスト2021」に2年連続でBTSを選出した。米国のテイラー・スウィフトや英国のエド・シーランなどをおさえての結果だ。9位には同じくK-POPグループのSEVENTEENが入り、いかにK-POPが世界を席巻しているかが分かる。
一方、このTOP10の中に日本のアーティストは入っていない。IFPIが22年に発表した、世界の音楽市場についてのレポート「Global Music Report 2022」では、5つのチャートのTOP10が掲載されている。その中で日本からは、アルバム売り上げチャートの9位にSnow Manのアルバム「Snow Mania S1」が入ったのみだ。
1990年代にはJ-POPが隆盛を極めていて、日本レコード協会、畑陽一郎専務理事の「音楽ソフトの10年」(「JAS Journal 2012 Vol.52 No.7(60周年記念号)」)によれば、日本の音楽ソフト市場規模(CDなどのオーディオレコード、DVDなどの音楽ビデオ、および有料音楽配信実績を指す)は98年に6075億円となり、ピークを迎えた。
それから25年。日本の音楽業界は、世界で通用する日本発のアーティストを生み出せてきたのだろうか。
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